醸造元:株式会社アリサワ


高知県香美市土佐山田町に蔵を構える株式会社アリサワは、1877年(明治10年)創業の老舗酒蔵である。物部川水系の清らかな伏流水に恵まれたこの地で、「文佳人(ぶんかじん)」の名に象徴されるように、“美しい酒を、美しい人へ”という想いを込めた酒造りを続けてきた。
この「文佳人」という銘柄は、今からおよそ400年前、土佐藩執政・野中兼山の娘であり、「お婉(えん)さん」と呼ばれた女性に由来する。大原富枝氏の小説『婉という女』(映画化作品)にも描かれるこの人物は、文筆や詩歌、学問に秀でた才媛として知られている。蔵の二代目は、このお婉さんを称え、文の佳人=文佳人と名付けた。教養と気品を備えた女性を記念する、物語性に満ちた銘柄である。
現在のアリサワを支えているのは、夫婦二人だけで全工程を担う、真摯で温かな酒造りだ。まさに夫婦の愛が育む酒としての丁寧さが、文佳人の味わいに静かに息づいている。また、搾った酒を−5度で厳密に管理するこだわりを徹底し、フレッシュな香味を損なわずに瓶詰めまで届ける姿勢が、文佳人の透明感ある酒質を支える大きな柱となっている。
今回手に取った「文佳人 リズール 純米吟醸」は、文佳人シリーズの中でも特に“軽やかさ”と“透明感”を追求したモダンライン。「リズール(Liseur)」とはフランス語で“文学を深く愛する精読者・読書人”を意味し、文学を味わうように、この酒をじっくりと深く楽しんでほしいという想いが込められている。“静かな時間に寄り添う酒”というコンセプトとも響き合う、知的で柔らかなニュアンスを持つ一本である。
その味わいは、口に含むとライムや紅玉を思わせる鮮烈な吟醸香が一瞬にして広がり、舌の上を滑るように流れる自然体の甘味に、透き通った透明感のある酸味が美しく調和する。甘味と酸味が寄り添うその中から、やがて米の旨味がふわりと顔を出し、味わいに柔らかな奥行きをもたらす。そして最後には、しっかりと主張のある苦味が颯爽と後味を切れ上げ、全体をきりりと引き締めてくれる。
始めて飲んだ銘柄だか、フルーティかつ軽やかでスッキリした味わいに驚く。素直に美味いと感じる。柑橘系の香りを感じるので、刺身全般、魚介類系のカルパッチョ・ムニエル、天ぷら、鶏の唐揚げなどが好相性と思われる。一日の終わりにリラックスして飲みたい美酒だった。
リピート度87%
【独自判定】
香り:4
甘味:4
酸味:5
渋味:5
コク:3
乳酸:2
購入先:いまでや 銀座店
価格:¥1,900



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